性転換エヴァンゲリオン 第弐話 『見知らぬ、天井』 脚本(Aパート)

 第弐話、Aパートだけまずロールアウト。台詞数がどっと増えたおかげでリライトがめがっさめどい。少しづつですがTV放映版と差を出し始めています。まだ間違い探しレベルですけどもwww

承前

 以下のシナリオは、原則として『EVANGELION ORIGINAL I』の書式に準拠して作成されています。但し、ビデオ収録版と差異がある場合にはビデオ版の描写に優先的に準拠しています。また、オリジナルの表現も含まれております。予めご了承下さい。

■第弐話「見知らぬ、天井」
脚本/榎戸洋司庵野秀明
EPISODE:2 THE BEAST

 第壱話とで前後編である。ただし、第弐話は前回の続きから始まるわけではなく、第壱話で途中まで描かれたエヴァ初号機使徒の戦闘の続きを、回想シーンとして処理するという異色の構成になっている。
 母親に対して心を閉ざし、また、恐らくは他の人間に対しても積極的に接触しようとしないであろうシンコを、マサトは引き取ろうと決心する。
 榎戸洋司は「美少年戦士セーラームーンS」でデビュー、「美少年戦士セーラームーン スーパーズ」でシリーズ構成を務めた脚本家。本作には、庵野監督から直接声をかけられ、参加する事となった。

Aパート

○夜・第三新東京市
  稜線が薄く明るい夜空にそびえる、墓石のようなビルのシルエット。
  小さく明滅する赤いライト。
  ビル街で対峙する二体の巨人。


ネルフ本部・作戦管制室
マサト「いいな、シンコちゃん」
シンコ「は、はい」
マサト「最終安全装置、解除」


  肩をロックしていた拘束具が外れる。


マサト「エヴァンゲリオン初号機、リフトオフ」


  僅かに前傾する初号機。


○エントリープラグ内
  緊張しているシンコ。
  耳にリツトの声が響く。


リツト「シンコちゃん、今は歩くことだけ、考えて」
シンコ「…歩く…」


○夜・第三新東京市 市街
  極めて、ゆっくりと初号機の右足が上がる。
  重心が前方へ移動していく。
  ズウゥゥゥン…
  道路面に着地。
  アブソーバーが衝撃を緩和するが、罅だらけになる傍らの電話ボックス。


○作戦管制室
一同「おおぉ…」


  感嘆の声を上げる、ネルフの人々。
  感激を覚える、リツト。


リツト「…歩いた」


○エントリープラグ内
シンコ「歩く…」


  左足を前に出す、初号機。
  だが、バランスを崩して倒れる。
  小さく悲鳴を上げるシンコ。
  受身も取らず、地面に激突。


マサトの声「シンコちゃん、しっかりしろ!」


  ゆっくりと顔を上げるシンコ。
  目前に迫る、使徒
  ヒッと息を呑み、慄く。涙目。


マサトの声「早く起き上がるんだ!」


  耳元に響くマサトの声。だが彼女には聞こえていない。


  頭部を鷲掴みにされ引きずり上げられる初号機。
  使徒に左腕を取られ、そのまま力任せに引き伸ばされる。


シンコ「あっ、ああああっ!」


  右手で左手を押さえ、苦悶するシンコ。


マサトの声「シンコちゃん、落ち着け。君の腕じゃないんだ!」


  だが混乱したシンコには聞こえていない。
  更に引き伸ばされる左腕。


リツト「エヴァの防御システムは?」
伊吹「シグナル、作動しません」
日向「シールド、無展開」
リツト「だめか!」


  シンコの耳にざらつく軋み音。
  ついに二の腕でへし折られる左腕。
  シンコは苦痛と混乱で声にならない。


伊吹「左腕損傷!」
日向「回路断線!」


  そのまま吊り上げられる初号機。
  頭部を掴んだまま、パイルバンカーのように後退して光を放つ使徒の左腕。


マサト「シンコちゃん、よけろ!」


  凝然と光を放つ使途の腕を見つめるシンコ。
  容赦なく初号機の右前頭部に打ち込まれるパイルバンカー。
  一発、二発、三発。
  右目を押さえて悲鳴を上げるシンコ。


シンコ「あ、あ、ああっ!」


  四発、五発、六発。
  エントリープラグ内に響くクラック音。
  内部に投影されたパイルバンカーの光が一層強くなる。


伊吹「頭蓋前部に亀裂発生」
リツト「装甲が、もう、もたない!」


  七発、八発、九発。
  ついに頭部を貫通するパイルバンカー。
  串刺しのまま飛ばされ、背後のビルに激突する初号機。
  パイルが引き抜かれると上下に吹き出す夥しい血のような赤い液体。
  パネルに表示される「非常事態/EMERGENCY」の表示。


青葉「頭部破損。損害不明」
伊吹「制御神経が次々と断線していきます」
日向「パイロット、反応ありません」


  項垂れて何の反応も示さない初号機。


マサト「シンコちゃん!!」


○病院の一室
  目を開けるシンコ
  蝉の音。ハイキーな画面。
  誰もいない部屋のベッド。
  窓の外から流れるラジオ体操第一。
  ベットリと濡れた背中。浮き上がるボディライン。
  夢かどうかわからず、思考がぼやけている。
  やがて、一つのことに気づき、不安になる。
  見た目。無機質な病室のライト。


シンコ「知らない天井だ…」

サブタイトル『第弐話 見知らぬ、天井』(黒バックに白字)


第三新東京市・朝
  空撮。画面一杯のビル壁面(ヘリの影付き)。切れて巨大なクレーターが見えてくる。
  昨夜の使徒爆発現場である。クレーターの周りにはネルフの特殊車両等が見える。
  「危険、立入禁止区域/DANGER KEEP OUT」のバリケード
  クレーンで吊り上げられ、車両に積み込まれようとしている初号機の頭部。


委員B「(台詞先行)使徒再来か…」


○某所
委員B「あまりに唐突ね」
委員D「15年前と同じよ。災いは何の前触れもなく訪れるものだわ」
委員A「幸いとも云えるわ。私達の先行投資が無駄にならなかったと云う点に於いては」
委員B「それはまだわからない。役に立たなければ無駄と同じよ」
委員D「そう。今や周知の事実となってしまった使途の処置、情報操作、ネルフの運用は全て適切且つ迅速に処理してもらわないと困るわ」
碇「その件については既に対処済です。ご安心を」


第三新東京市・爆心地
  クレーター中心に設営された簡易テント。空にはネルフのヘリ。
  テント内、パソコンや研究設備に混じって、コーラやミネラルウォーター、麦茶、紙コップがある。
  記者会見の中継を見てリモコンを押すマサト。だが、どのチャンネルも同じ番組である。


マサト「発表はシナリオB-22か」


  ウチワを仰ぎながら独り言のマサト。
  首から下は暑苦しい防護服を着ている。首からタオル。


マサト「またも事実は闇ン中だな」
リツト「広報部は喜んでたよ。やっと仕事ができたって」
マサト「うちもお気楽なもんだなあ」
リツト「どうかな。本当はみんな、こわいんじゃないか?」


  マサトの横顔。玉のような汗。


マサト「あったりまえだろうが」


○某所
委員C「ま、その通りね」
委員B「しかし碇君。ネルフエヴァ、もう少しうまく使えないの?」
委員D「零号機に引き続き、君らが初陣で壊した初号機の修理代。国がひとつ傾くわ」
委員A「聞けばあの玩具は、君の息子に与えたそうじゃないの」
委員C「人、時間、そして金。親子揃って、幾ら使ったら気が済むの?」
委員A「それに、君の仕事はこれだけではないでしょう」
  「極秘 人類補完計画 国際連合最高幹部会 第17次中間報告 人類補完委員会 2015年度業務計画概要 総括篇」の表紙がカットイン。
委員A「人類補完計画。これこそが君の、急務よ」
委員D「そう。その計画こそが、この絶望的状況下に於ける、唯一の希望なの。私達のね」
リブ「いずれにせよ、使徒再来に於ける計画スケジュールの遅延は認められない。予算については、一考しましょう」
委員A「では、あとは委員会の仕事です」
委員D「碇君、ご苦労でした」
  テーブルまわりから、消える委員会の面々。(実はホログラフ)
リブ「碇。後戻りはできないわよ」
  消えるキール。一人残される碇。
碇「わかっているわ。人間には、時間がないのよ」


○病院、廊下
  蝉の声のみ。ハイキーな画面。
  窓から外の景色を眺めるシンコ。
  現実感がなく、夢の中なのでは?という風情。
  集中治療室から運ばれてくるレイジとすれ違う。
  無表情にシンコを見ているレイジ。
  その姿に現実であることを思い知らされるシンコ。
  衝撃を受けた表情。
  廊下の向こうからやってきてレイジに付き添う碇の姿。
  シンコを一瞥するも、無視するかのように視線を外す。
  何か悪いことをしたときのように瞼を伏せ、うつむくシンコ。


ネルフ特殊車両・車内
  荷台では何かが巨大な帆布に覆われている。
  防護服を脱ぎ、インナー姿のマサト。涼しげな表情。


マサト「やっぱクーラーは人類の至宝。まさに科学の勝利だな」


  車内電話を置くリツト。


リツト「シンコちゃんが気づいたそうだ」
マサト「で、容態はどうなんだ?」
リツト「外傷はなし。少し記憶に混乱が見えるそうだけど」
マサト「まさか、精神汚染じゃ…」
リツト「その心配はないそうだよ」


  使途のサンプルのデータ作業に戻るリツト。
  少々反省気味に云うマサト。


マサト「そうか…そうだよなぁ。いっきなり、アレだったもんなあ」


  仕事をしながら、淡々と云うリツト。


リツト「無理もないね。脳神経にかなりの負荷がかかったもの」
マサト「心、のまちがいじゃないのか」


○病室、ロビー
  座って待ってるシンコ。ハイキー*1な画面。
  凝っと自分の左手を見つめる。女の子らしい細腕。


第三新東京市・市街
  夏の太陽。工事中の街。騒音。
  巨大な銃(カバー付)がクレーンで運ばれている*2
  第25誘導兵器システムビル建築計画の立看板。
  建設中の兵装ビル。
  路上に造られている巨大なコンセント。


  先の特殊車両から降りているマサト。私服に着替えている。
  窓から顔を出してるリツト。
  真顔で見ているマサト。少し疲れの見えるリツト。


マサト「エヴァとこの街が完全に稼動すれば、いけるかも知れないな」
リツト「使途に勝つつもりかい? 相変わらず、楽観的だね」


  マサトの背後で兵装ビルにチャージされる誘導兵器の弾帯。


マサト「あんだよ。希望的観測は、人が生きてくための必需品だぜ?」
リツト「…そうだね。君のそういうところ、助かるよ」
マサト「(ニヤリと笑って)じゃあな」


  弾帯の傍らにアルピーヌ。


○病院、ロビー
  シンコを引き取るマサト。引き絵で。
  蝉の声。ハイキーな画面。響く業務アナウンス。


○病院・エレベータ昇降口
  開くドア。碇司令が一人で乗っている。
  乗ろうとしていたシンコ。ハッとする。
  碇が睥睨する。両者を下からナメる絵。
  顔を歪め、そむけるシンコ。眉一つ動かさない碇。
  閉まるドア。
  黙ってその様子を見ているマサト。


リツト「(台詞先行)よろしいんですね。同居ではなくて」


○長いエスカレーター
  シンコとマサトが並んで乗っている。上り。


冬月「碇たちにとってはお互いにいない生活が当たり前なのよ」
リツト「むしろ、一緒にいるほうが不自然…ですか」


マサト「(台詞先行)一人で、かい?」


ネルフ本部
  シンコの住民登録票のアップ。


士官A「そうよ。彼女の個室は、この先の第6ブロックになるわ。問題ないでしょう」
シンコ「ハイ」
マサト「それでいいのかい、シンコちゃん?」
シンコ「いいんです、ひとりのほうが。どこでも、同じですから…」


  シンコを見つめるマサト。
  彼は、決心する。


  電話を受けてるリツト。コーヒーメーカーとカップをナメて。


リツト「なんだって?」


  電話をかけてるマサト。本部の廊下?
  鞄を抱えて不安げな表情のシンコ。


マサト「だからァ、シンコちゃんは、俺ンとこで引き取ることにしたから。上の許可もとったしな。…心配しなくっても、ガキに手ェ出したりしないってばよ」
リツト「当たり前じゃないか! 全く、何考えてるんだ君ってヤツは…」


  顔をしかめて受話器を耳から放すマサト。まだリツトの小言が聞こえる。


マサト「相変わらず、ジョークの通じないやつだな」


○地下トンネル
  走るマサトの車。
  未だガムテープで仮止めしてある壊れたパーツ。
  助手席のシンコ。自分の鞄と転校の書類袋を抱えている。


マサト「さァて、今夜は、パーっとやらなきゃあな」
シンコ「(キョトンと)何をですか?」
マサト「もちろん、新たなる同居人の歓迎会、さ」


  微笑むマサト。車がトンネルを抜ける。白くとぶ、窓外。


○市街・コンビニ(サークルK
  店の前に止めてあるマサトの車。
  意外とモノの少ない商品棚。
  有線とレジの事務的な音だけが鳴っている。
  レジ前に並んでる二人。カゴの中は、酒とツマミとインスタント食品とUCCコーヒー。
  シンコらの耳に入る、客の会話。カゴの中は非常食等。
  客はシンコらのカメラ手前をよぎっていく(上手*3→下手)。


男A「やっぱり引っ越すんですか?」
男B「ええ、まさか本当にここが戦場になるなんて、思ってもみなかったですからね」
男A「ですよねぇ。うちも子供と家内だけでも、疎開しろって云ってあるんですよ」
男B「疎開、ねぇ。いくら要塞都市だからっていったって、何一つあてにできませんからね」
男A「昨日の事件、思い出しただけでもゾッとしますよ」
男B「ほんとに」


  うつむいてふとレジ横の新聞を見るシンコ。
  全紙の一面を飾っているエヴァの記事。
  シンコの頭の中で断片的にフラッシュバックされる戦闘の記憶。
  客の会話を聞き耳してたマサト。あれ、隣のシンコを見る。
  蒼ざめ、思わずマサトの袖をつかんでいるシンコ。
  何も云わないマサト。
  再び、有線とレジの事務的な音だけが鳴っている。


○走るマサトの車・車中
  夕日に照らされて九十九折れの坂を越えていくアルピーヌ。
  助手席のシンコ。コンビニの袋をかかえている。


マサト「済まないけど、ちょっとばかり、寄り道するよ」
シンコ「どこへですか?」
マサト「ははっ、いいところさ。デートにぴったりの、ね」


  顔を伏せ、赤らめるシンコ。


第三新東京市・夕景
  高台に止まっている車。傍らにマサトとシンコ。
  眼下に広がる無機質なコンクリのブロックエリア。


シンコ「何だか、寂しい街ですね」


  時計を見ているマサト。


マサト「時間だ」


  鳴り出すサイレン。山に木霊する音。
  道路や建物にかかっている大規模な防御シャッターが開いていく。*4


シンコ「すごい…ビルが、生えてく…」


  地下に収納されていたビルが地上に戻っていく。
  空に伸びていく集光ミラー。赤い太陽光を反射している。
  シンコの眼前に広がっていく大計画都市。
  夕日の中、街のあちこちから、生き物のように生えてくる高層ビル群。


マサト「これが、使徒迎撃要塞都市、第三新東京市。(シンコに)俺たちの街さ」


  マサトを見るシンコ。


マサト「そして、君が守った街…」


  大ロング*5。夕焼け空にそびえ立つ、超高層ビル群。(何本かは建設中)

*1:「ハイキー」とは、映画用語。実写で強い照明を使うライティングの事。

*2:ここで運ばれている巨大な銃は、エヴァが使うためのパレットライフル。兵装ビルと呼ばれる施設に収納されているところ。

*3:「上手」とは画面の右側を指す用語。演劇舞台などではその逆で左側。

*4:第三新東京市は、使途との戦いのために作られた要塞都市である。このシーンでは、第三使徒との戦いが終わったため戦闘形態を解き、通常の形態に戻しているのだ。

*5:「ロング」とは、「ロングショット」の事。すなわち、人物や風景を遠くからとったショット。