ANNO IS BACK!

 エントリを書く為に確認しなければならない事が多々あったので、blog界隈のヱヴァ劇に関するエントリをここ数日かなりの数読んでみた。

再点火、炎上

 驚かされるのは、どのエントリにも共通して見られる言説の「熱さ」だ。「序」は客観的に見れば12年前に終わっているアニメの、多少捻りを凝らしたリメイク版に過ぎない。新約Zのように「懐かしいよね」「でも臭い商売だよな」といった意見が主流を占めてもなんら不思議ではないのだ。だが、そうはなっていない。皆何かに憑かれたかのように饒舌にヱヴァを語り、そしてエヴァを語る。殆どビョーキだ。俺自身も含めて。俺達は未だにエヴァの夢の続きを自堕落に見続けているのか?
 そうではなかろう。俺達は忘れたつもりになっていた狂熱の記憶を撃ち抜かれたのだ。EoE以来ついぞ同レベルの興奮や欲求を味わえなかったヲタ魂は、歳を取ろうが仕事に就こうがずっと心の何処かで燻っていたのだろう。その熾り火は、油を注がれて一気に燃え上がった。
 いみじくも庵野は喝破した。この12年間、エヴァより新しいアニメーションはなかったと。つまりはそういうことなのだ。ナデシコでももののけ姫でもターンAガンダムでもエウレカセブンでも、そしてコードギアスでもハルヒでもエヴァの代わりにはならなかった。俺達は心の何処かで飢えていたのだ。心底熱くなれる、語り尽くせる、余事を一切合財かなぐり捨てて没入できるアニメに。だからこそ、業界総出で「いらっしゃいませ」と手くすね引いて待ち構えているようなウェルメイドのアニメに転ぶ事を潔しとしない古い腐れヲタの魂をすら、「序」は一瞬で捉えてしまったのだ。

庵野秀明恐るべし

 クリエイター庵野秀明の面目躍如といえよう。業界を取り巻く袋小路的な閉塞感や限界感を容易く打ち破り、多くの者の心に往年の熱量を蘇らせた。内なる炎に焦がされて俺達は彷徨する。ヱヴァにまつわる言説を朗々と唱えながら。「破」を待ちかねて狗のように涎を垂らしつつ、あたかも聖なる詔を奉じそれを伝道するカルトのように。
 庵野には、以前から既存の業界的枠組みの中に納まることを潔しとしないところがある。それは彼自身の巨大な才能のためでもあろうし、カルト的に崇められたり業界から干されたり寵児扱いを受けたり飛び出したりを繰り返した浮き沈みの激しい特異な経歴のためでもあろう。だがそうであるが故に、彼の本気が生み出す桁外れのエネルギーは常に消化しきれない莫大な余剰となって視聴者の中に残る。トップが、ナディアが、そしてエヴァがそうであったように。それは狂気と表現しても差し支えない、他の監督では容易に比肩し得ない壮絶なパトスだ。

心囚われるということ

 庵野が復帰のたびに齎す「ウェルメイド的なアニメとは違う」センスの迸りが鮮烈なのだ。そして何よりも、込められた情念の桁が異常なのだ。しばしば常識的でお上品な業界の約束事を余人には模倣し得ない形で逸脱してしまうほどに。だから視聴者はそれに酔わされる。踊らされる。溢れ出る余剰を振り撒きながら。庵野の本性を百も承知で。
 一方、庵野を嫌う者も決して彼を無視することはできない。突きつけられるメッセージが過剰に強烈だから目を背けることができないのだ。口を挟み、悪口雑言を叩き付けずにはいられない。そして言及した瞬間、彼もまた庵野の存在に心を囚われてしまっているのだ。
 余りに巨大な質量は、周囲の塵芥に影響を与えずにはおかない。塵芥の主体的意思には一切関わりなく。ここに庵野の真の偉大さ、恐ろしさがある。狂熱の源は渦の中心核たる彼の魂にこそある。それはまさしくブラックホールの核だ。12年の時を経て巨大重力源がその口を再び開くと、間近にいた者は瞬時に吸い込まれてしまった。ポストエヴァの時代、空位となった玉座を巡って幾多の勇者が相争った。しかし彼らの歴史は、僅か98分で吹き飛ばされてしまったのだ。真に玉座を得るべき大王の帰還によって。

Summer of War, Again

 俺達はまだヲタ全体の中では少数派でしかないだろう。しかしTV版エヴァも最初から皆が狂ったように嵌り込んでいたわけではない。最初に噛り付いたコアファン(殆どがガイナックスファン)の熱に、次第に周囲が浮かされていってビッグムーブメントに成長したのだ。今回もそうでないと誰が云えよう。
 高らかに角笛を吹き鳴らせ。皆殺しの雄叫びを上げよ。己が狂気を周囲に撒き散らせ。その狂気はやがて周囲を蝕み、俺達が望んでやまないあの法悦境を再び地上に現出せしめるだろう。
 ヱヴァを嫌い拒む者は、そうであることを心のままに吠えるがいい。多くの者がそれに耳を傾けるだろう。そして否応なく庵野の仕掛けた陥穽に堕ちてゆくだろう。受け手がファンになるにせよアンチになるにせよ、アンチ的言説は呼び水にしかならないのだ。ヱヴァを心底憎むならば完黙を貫くしかない。無視し得ないものを感じた瞬間に、既に一敗地にまみれているのだ。俺達と対になる熱源として、アンチ諸氏もまたサブカルや文学、果ては一般人まで巻き込んだあの Finest Days の再現に加担することになる。アンチであればあるほどに。
 さあ、言及せよ。踊れ。吠えよ。ヱヴァには、庵野秀明には、その力がある。